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こんにちは、fukumomo3_Photo(@fukumomo6_com)です。
メールのやりとりが妙にスムーズだった。
まるで付き合い始めたカップルのように、出品者と私の間で交わされるメッセージは無駄がなく、返信も早い。
「予備車検完了」の報告が届いた瞬間、私は次のメールを打ち始めていた。
「都合のいい日時を指定してください。」
その一文を見て、胸が高鳴る。
あの「またがると凄い彼女」に、ついに会えるのだ。
引き取り場所は静岡県のオートバイ屋。
整備も済み、車検も通った状態で待っている。
あとは私が迎えに行くだけ。
10年ぶりに乗る電車の振動が、妙に心地よく感じられた。
ヘルメットを片手に、グーグルマップを頼りに歩く。
目の前にシャッターが閉まったオートバイ屋が見えてきた。
この扉の向こうに、彼女がいる。
「ボクサーツインの誘惑|R100RSと私の物語」

第二話:またがると凄い彼女、衝撃の出会い
車検証の名義・自賠責・車両の状態をメールで確認する。予備車検(予備検査)を受け、名義変更をしてからの引き渡しとなった。落札ボタンはとうの昔に押してある。出品者の行動が早い。三日ほどたっただろうか「予備車検完了」の件名のメールが届く。同時に「都合のよい日時と場所を指定してください」とメールを返信する。まるでメールのやりとりが付き合ってすぐのカップルような速さだった。出品者との待ち合わせ場所と時間が決まる。あのまたがると凄いと噂の彼女に会えるのだメールの返信も早くなる。
引き取り場所は静岡県のオートバイ屋となった。出品者がオートバイ屋に委託し整備と予備車検をうけた。引き取りもオートバイ屋に委託した。メールのやり取りで分かっていた。出品者は忙しい起業家だ。今までメールのやり取りしてきた相手に会える。そう思ってずっと楽しみにしていたがしょうがない。いまさら出品者に会えなくともあの「またがると凄い彼女」に会ってお持ち帰りできればそれで良いのだ。2019年5月30日(木)ドキドキしながら10年ぶり電車にゆられ一路静岡へ向かう。途中新潟の電車はドアが手動だと知らず開くまで待っていると後ろの学生に叱られる。学生に赤面しながら久しぶりの名古屋駅に到着。始発電車だったので朝飯がまだだった。立ち食い蕎麦屋でうどんを食う。名古屋で待つこと数分なつかしい赤い電車(名鉄)に乗り換え静岡へ。赤い電車の「がったんごっとん」のリズムが気持ち良い。浜松駅を通過する。都会になっていることに驚く。しかし最近のことではなく、かなり前から都会だったのだろうと考え深くなる。電車の旅を楽しんでいると最終駅に到着した。
駅につき学生にもまれながらヘルメットを片手にグーグルマップで目的地を探す。歩くこと数分でオートバイ屋らしき建屋がみえてきた。シャッターが下りているので開店前なのはすぐにわかった。約束の時間より1時間も早く着いたのだから当然だ。近くを散歩でもしようかと考えたが、近所迷惑になりそうな感じではなかったのでシャッターの前で待たせてもらう。待つ間車検証とナンバープレートの確認をする。名義変更は送られてきた予備車検証・委任状・譲渡証明書・ナンバープレート・自賠責と自分の住民票ですませてある。したがって「またがると凄い彼女」は書類上私の所有物なのだ。このシャッターの向こうに、あの「またがると凄い彼女」が待っている。熱くこみ上げる気持ちをおさえきれない。鍵穴から覗けないかと子供みたいなことをしてみる。すると一台の車がオートバイ屋の駐車場に入ってきた。
あわてて大人の振る舞いをしようと中腰から立ち上がり挨拶をする。しかし手に持っていたナンバープレートを落とす。ワクワクを隠せない私がはずかしい。気持ちを察してくれたオートバイ屋の店主が早速シャッターを上げてくれた。シャッターが開く。そこには数台のオートバイが並んでいる。なかから店主がセンタースタンドを上げて私の前に彼女を連れてきた。待ちに待った瞬間だ。チョークを引きエンジンを始動。数回のセルでボクサーツインが爆発した。店主の説明など上の空で「またがると凄い彼女」の凄いを早く感じたくてうずうずしている。下半身が爆発寸前だ。暖気をするあいだにナンバープレートをつけ店主にお礼の挨拶をし早々と彼女にまたがる準備をした。「センタースタンドが曲がっているかもしれません、通常より重たいので気をつけてくださいね」の言葉を最後にヘルメットを被り彼女にまたがった。またがって初めてアクセルをあおったときのことを今でも覚えている。「またがると凄い彼女」は間違いで、私の中で「またがると異常に重い女」に変わり「またがってアクセルをあけるとなんだこの女」に変わった。またがってアクセルを開けるとまるで「イヤイヤ」をするように左右に体を大きく揺らすのだ。ボクサーツインの特性なのだろうが不思議な動きにびっくりしたのを覚えている。
しかし市街地を抜け峠に入り彼女の「イヤイヤ」になれた頃あることに気がついた。アクセルの開け閉めに関係なく私の動きに合わせ彼女の体が素直に反応するのだ。いわゆるジャイロ効果が横置きエンジンより少なくほぼ無い状態でコーナリングを楽しめるのだ。またがった最初に感じた「またがると異常に重い女」と言ったことを心から謝り「またがってアクセルをあけても軽く走る凄い女」に言い直させてもらう。さらに回転数を上げて高速コーナーを立ち上がる。そのときはまるで飛行機の操縦をしているように感じる。飛行機の免許もなければ操縦したこともないが不思議とそう思えたのだからしょうがない。なぜならばエンジン音が戦争映画などで聞いたことのあるレシプロ戦闘機の音なのだ。峠をぬけ長野の19号線に合流。早く高速道路を走りたく予定の塩尻よりかなり手前の中津川から高速に乗る。フェアリングに収まり幅の狭いハンドルに戸惑いながらアクセルを徐々に開ける。第一感想は「静か」これにつきる。風切音が少なくボサノバを流したくなるぐらい快適なのだ。第二に感じたのはレーンチェンジのヒラヒラ感だ。これは凄いとしか言いようがないまさに「またがると凄い彼女」はこのことを言うのだと感じた。
豊田飯山で降り興奮した下半身を冷ます。すこし勾配のある自販機のある路肩に止めセンタースタンドをおろす。「重い」オートバイ屋の店主の言葉を思い出した。「センタースタンドが曲がっているかもしれません通常より重たいので気をつけてくださいね」の「曲がって」ぐらいを思い出した時勾配の反対側にバイクが倒れた。いわゆる立ちゴケである。立ちゴケをしたときの反応は皆シンプルで面白い。ほとんどの人はまず周りを見渡す。誰にも見られていないことを確認したのちゆっくりとバイクを起こす。彼女にはエンジンガードが付いているのでエンジンガードが地面と接触するだけでそのほかに傷はない。立ちゴケはいつものことなので簡単に起こす。しかしサイドスタンドを立てようと探すが無い。よく見ると通常ありそうな場所ではなくかなり前の方に細く頼りないサイドスタンドがあった。ゆっくりとサイドスタンドを下ろしバイクを止めコーヒー缶を片手に彼女を眺める。
静岡から飯山まで一度も止まらず走った。ブレーキを何度も何度も握り彼女を確認しながら走る。一つのギアでレッドゾーンギリギリまで回して彼女の悲鳴を聞きながら走る。全開からのフルブレーキ。なにかのテスト走行でもするかのように走る。気がつくと飯山だった。残りの道のりはゆっくりと走る。彼女と話をしながら運転をした。話題は「時計はアナログなんだね?」「メーター微妙に狂ってるね」「ステップ左右の位置ちがうね!」「ドイツ人?日本語わかる?」などといったどうでもいいことで一人盛り上がる。しかし彼女は私の指示を忠実に守り黙々と走る。見慣れた田舎道。いつもの農道を走る。できたばかりのバイク小屋に到着した。バイク小屋の電気をつけ彼女を小屋に招き入れる。空のバイク小屋は広く見えずっと何かが足りないと感じていた。しかし彼女が入ると景色が変わる。足りていなかったのは彼女だった。「今日からここが君の家だよ」と熱くなったタンクをポンポンと叩き会う前に決めていた名前を「BMW R100RS」の本名にした。私が彼女に名前をつけるには、まだまだ修行が足りないと判断したからだ。
自分の経験の浅さを反省した1日だった。
BMW R100RSさん、ありがとうございました。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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