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薄い雲の下、単気筒は膝で小さく数える。
ビニールで包んだナビは黙り、風だけが道を指す。
合っているかどうかより、外してみたい朝。
峠の手前に、余白がひとつ置かれていた。
「単気筒の衝動|XLR250BAJAと私の物語」

第二十二話:峠を外す余白
薄い雲の光が標識の縁だけを拾い、単気筒の鼓動が膝裏で均等に鳴った。ビニールを二重にした車用ナビは、輪ゴムの線を白く反射させて黙っている。袖のベルクロは一本ぶん残して留めたまま、私は息を少しだけ混ぜた。まだまだ、早春の佐渡は冷たい。
ナビはセットしたけれど、無視して走る。無視しているけれど、気にはしていた。時間はある——そう思いたかったのだと思う。間違えるのは、少し楽しい。方向音痴ではない、と自分に言い聞かせつつ、四速のまま、肩の力を抜く。
力を抜きすぎたのか、間違えたのか、はんぶんわざとだったのか。合っていたのか、そもそも「合う」とはどこなのか。考えながら、ダムの見える峠を抜ける。左手に広い水面、風の向きで色が一段暗くなった。少しだけ間違いと技術不足を認めながら、スロットルを髪の毛ほど戻し、ブレーキは指二本だけ添える。
登る。かなりきつい。下る。もっときつい。路肩の砂が寄るたびに、体重をステップへ移し替えた。雪解け後の落ち葉と砂がBAJACOと私を楽しませる。耕運機の音が谷に溶け、土の匂いが一瞬だけシールドをくぐる。工具袋は左、貴重品は体に寄せたまま、呼吸を整えることが精一杯だったことは彼女に内緒だ。
町に出る。少しホッとした。信号の青がやさしく背中を押し、私はアクセルを少しだけ開ける。ナビは相変わらず黙っているが、袋の口を指でなぞると、ひねった癖がまだ確かに残っていた。
調整していたら「目的地付近です。」と、ナビが突然しゃべる。けれど光が当たると画面は白く、音声もエンジンを止めなければ届かない。だから、聞かなかったことにする。四月十一日、三日目、AM9:36。少しだけ回しすぎたBAJACOのエンジンで右手を温めながら、左手でタンクを小さく叩く。
黒い雲の下で路面の粒立ちが細り、排気の音が、静かに遠のいていた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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