「単気筒の衝動|XLR250BAJAと私の物語」第十八話:封をする手、火を守る音

「単気筒の衝動|XLR250BAJAと私の物語」第十八話:封をする手、火を守る音 BAJA
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幕を撫でる風の薄い手と、ドラゴンフライの細い唸り。

湯気は橙にほどけ、濡れた指先に塩と米の匂いが残る。

封をする手が、旅の区切りをそっと告げる夜。

相棒は柵にもたれ、海は低く息をひそめている。

「単気筒の衝動|XLR250BAJAと私の物語」

MSRドラゴンフライで米を炊いている

第十八話:封をする手、火を守る音

 風が薄く幕を撫で、ドラゴンフライの芯が細く唸る。夕の光は低く、テントの布を透かして橙を置く。外で波が角を丸め、柵にもたれているBAJACOの影が、少しだけ縮む。「寂しくないか」と一瞬気になったがウイスキーがそれを止めた。

竿先には気配がある。が、上がってくるのは外道のフグばかり。最初の二、三匹は可笑しくて笑ってしまうが、あわせが遅れると針を飲まれるから、つい早くなる。結果、ほかの魚は遠のく。いくら釣れても、食べられない。私の手元だけが忙しく、海は知らん顔で笑ってる。

部屋に戻る。ストーブの風防を少し寄せ、燃料バルブを四分の一だけ開く。濡れた靴下を左足に通し、火の上でじわじわと湯気を立たせる。グラスのウイスキーを水で半分に落とし、口を湿らせる。もしこれが無かったら、今夜は少し凍えるはずだ。あるから、楽しい。そう思うと、笑ってしまう。

フィルムをビニールにまとめ、封筒を閉じる。宛先は熊本の現像会社。佐渡の消印が押されるのだろう、と想像してみる。けれど私は、その印影を決して見ない。そう思ったところで、口を糊に当てる指先が静かになる。封をする手は、旅の区切りの合図みたいだ。

明日のために米を研ぐ。水の冷たさで指の腹がきゅっと締まり、鍋の底に米がさらさら鳴る。島の米であることを、声にせずに確かめる。火を弱め、蓋をずらして湯気の逃げ道を一つ。やがて塩むすびを三つ、ラップに包む。硬くないのに崩れない、やわらかいのにべたつかない。国道沿いにおにぎり屋がまだ多かった昭和の頃を、ふいに思い出す。色褪せた看板だけか残る今は、手の熱で塩が溶ける速さだけが目安だ。

封筒をバッグの内側へ。工具袋は左、雨具は入口側、貴重品は体に寄せる。順番はいつも通り。ファスナーを一度下ろし、テントの口を閉じる前に、息をひとつ置く。四月十日、十六時四十三分。外に出て、本格的に飲もう。

炎の音が一つ小さくなり、海の呼吸が、静かに遠のいていく。
キャンプ場の灯台
Rolleicord 400TX 2013/04/11

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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