「単気筒の衝動|XLR250BAJAと私の物語」第二十一話:雲の縁とビニールの儀式

「単気筒の衝動|XLR250BAJAと私の物語」第二十一話:雲の縁とビニールの儀式 BAJA
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雲の縁で空が二つに割れ、海は青く山は黒い。

指先に塩むすびの温度、膝には朝の冷え。

ビニールの口をひとつ、ふたつ――今日の儀式。

鍵を立てると、BAJACOが小さくうなずいた。

「単気筒の衝動|XLR250BAJAと私の物語」

解き放たれたBAJACO

第二十一話:雲の縁とビニールの儀式

 シュラフの内側で音が丸くなる。モンベルの#3が頬に触れ、遠くで「ばばばばっ」と幕を叩く雨。二日酔いの名残が額の奥で鈍く転がり、私はもごもごと体勢を変える。指先の温度が戻るまで、寝袋の口を少しだけ狭めて呼吸を整える。雨は続く。ブログに昨夜の写真を貼っては、また目を閉じる。やがて、光。ファスナー越しに、まぶしい朝が差し込んだ。

前室に顔を出すと、海のほうは驚くほどの晴天、山のほうは鉛を越えて黒い。境界線のうえで雲がぴたりと切れ、風はまだ冷たい。膝に触れる空気が迷わず温度を奪い、息はほんの少し白い。決めれば早い。寝起きはいつも良い。雨具、長靴。袖のベルクロを一本ぶん空けて留め、膝の冷えを確かめる。昨日炊いた佐渡産米の塩むすびを一つ。噛むたびに、昨夜の湯気の温度が舌の底で弱く灯る。

ヘルメットを拾い上げると、フライに大粒の跡。指で一つ弾いて、テントの口を少し開ける。今日は島をゆっくり回るつもりだった。だから、ナビは必需。けれどこれはバイク用ではない。ビニール袋を二重にして、口をひねって防水する。輪ゴムを一本追加。生活の手癖は、天気に対する礼儀だと勝手に思っている。

BAJACOのサイドバッグには、外付けバッテリーとパソコン。彼女自身にはバッテリーがないから、電気は背中から借りるしかない。タンクを軽く叩くと、「それでいい」と促された気がして、笑ってしまう。工具袋は左、雨具は入口側、貴重品は体に寄せる。順番はいつも通り。ファスナーを一度下ろして、息をひとつ置く。

テント脇の桜に目をやる。昨日は堅かった蕾の先に、今日は少しだけピンクがのぞく。たぶんソメイヨシノ。島の時間は、私よりゆっくり早起きだ。フロントの泥を草で落とし、ストラップを指で弾いてから、アゴ紐を確かめる。山の黒と海の青が、視界のなかで一歩ずつ距離をとる。

【佐渡島 三日目 4月11日】AM8:25。
膝に冷え、指に塩。ビニールの口をもう一度だけひねり、私はBAJACOのキーをそっと立てる。

幕の雫が最後の一粒だけ落ち、波の音が、静かに遠のいていく。
Rolleicord 400TX

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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